保護者さんからの希望があり、通信制高校に通うお子さんの進路相談に同席したことがあります。
そこで、高校の進路の先生が「就職する」ということに対してこんな話をしてくれました。

働く場所を決めて、いざ働いてみても、そこが合わないこともある。
それで「自分はできないんだ」とあきらめないで、次の仕事にチャレンジしてほしい。
52枚のトランプから「ハートの1」を引くのは簡単じゃないけど、あきらめずに引き続ければ必ずどこかには入っているから。
あなたに合う職場は絶対にあるからね。
この話を聞いて、本当に素敵だなと思いました。
生きづらさを個人の要因だと捉えず、周囲の環境も大切だと理解することが支援の場ではとても重要です。
今回の記事ではトランプの例え話をもとに障害の「社会モデル」「個人モデル」について皆さんと考えたいなと思います。
52枚のトランプから「ハートの1」が出るまで引き続けたら
52枚のトランプをすべて使って、「ハートの1が出るまで引き続けてください」と言われたとします。
これは完全に運の要素です。1枚目で当たることもあれば、52枚目までかかることもあります。
これは、私たちが「自分に合った環境」を探すプロセスと同じです。
転職を何度も繰り返すことがあっても、それは「運が悪い」わけでも「その人に問題がある」わけでもありません。
単に、まだ合う1枚を引き続けている途中なだけです。
「社会不適合者」という言葉に感じる違和感
「社会不適合者」という言葉は、原因を完全にその人個人に求めています。
「社会でうまくやれないのは、あなたに要因があるから」という考え方です。
これが障害の個人モデルと呼ばれる考え方の基本です。
一方で社会モデルの考え方は、これとは逆です。
それぞれの人の得意が生きる社会であるべきだ、というのが基本の考え方です。
つまり



環境次第で、その人が活躍できることもあればできないこともある
ということです。
今、医者として活躍している人がいるとしたら、その人は「医者という環境」と噛み合うスキルを、持っていたということ。環境と本人の相性が合ったから活躍できているのです。
支援を組み立てる3つの視点
支援を組み立てるとき、大きく3つの視点があります。
トランプに例えるとこうなります。
① 個人のスキルを磨く|選べるカードの種類を増やす視点
本人の対応力を上げていくアプローチです。ハートの1でもスペードの3でもダイヤの10でも、どんなカードが来ても対応できる力をつける。極論、どんな環境でも生きていける子は、カードを引いた時点でどれが来ても対応できます。
ある程度どのような環境でも対応できることがもちろんその子の「生きやすさ」につながります。
しかし、それを重視するあまりにその子にそのスキルを獲得させることはほぼ不可能なのにそれを頑張らせてしまうと言ったことにもつながりかねません。
② ツールでサポートする|引いたカードにアレンジを加える視点
環境全体を変えるのではなく、今いる環境(引いた1枚)に対してピンポイントで調整を加えるアプローチです。音の刺激がつらい子がイヤーマフを使用する、というのはこの視点にあたります。
放デイでの療育でも、施設自体のハード面の環境を作り変えることは困難です。
クールダウンのために防音の個室を用意したり、体を目一杯動かせて安全面も配慮できるように柵付きの広場を用意したりするなどはよほど金銭的に(立地的にも)余裕がなければほぼ不可能です。
なので、ピンポイントでサポートする視点はとても重要です。
③ 環境自体を作り変える|デッキの枚数・種類を調整する視点
社会側の受け皿そのものを増やす、変えるアプローチです。52枚中ハートの1が1枚しかない状態を、60枚中4枚に増やせば、その子にとって出会える確率が上がります。「その子に合う環境の“数”を社会に増やす」という、社会全体にも関わる視点です。
放デイも「選ばれる時代」に入っていくのかなと思います。
お子さんや保護者さんたちにとって事業所数も増えて、選択肢が広がるということはとてもいいことです。
「より多くのニーズに応えられる事業所作り」がこれから大切になっていきます。


大事なのは順番。②③が整うから、①が育つ
ここで一番伝えたいことがあります。
①(個人のスキル)を育てようとするとき、多くの現場では「まず本人に頑張ってもらう」という順番で考えられがちです。でも実際は逆で、②(ツールによる支え)と③(環境の調整)が整っているからこそ、その子は安心して取り組むことができ、結果として①が育っていきます。
安心できる環境やサポートがない状態で「スキルを身につけなさい」と求めるのは、順番が逆なのです。まず土台(②③)を整えることが、①が伸びるための前提条件になります。
これはスモールステップの考え方です。
支援の手を段々と引いていく=その子ができることを少しづつ増やしていくという視点を基本にしましょう。
発達の特性によって、①には限界がある
ただし現実として、ADHDやASDといった発達特性がある子の場合、①(対応できる範囲)そのものに限りがあることも事実です。
例えば「医者」という職業は、非常にピンポイントな環境です。求められるスキルの幅が狭く、誰にでも対応できる仕事ではありません。同じように、その子の特性によっては、対応できる環境の幅自体が限られてしまうことがあります。
だからこそ、①だけに頼るのではなく、②や③を通じて選択肢や支えを用意しておくことが、ともて重要になります。
バランスが大事なのに、今は①が先に求められがち
本来は、②③(環境を整える)と①(スキルを育てる)は両輪であるべきです。しかし今の社会や子どもを取り巻く環境において、まだまだ「本人に力をつける」という①の側に重きが置かれがちです。
環境を整えることが先で、その先に本人の力が育つ。この順番の意識が、子どもの成長を大きく左右します。
放デイの現場でできること
日々の支援を振り返るときに、次のような問いを持ってみてください。
- この子にとって、今の環境は安心して取り組める場になっているか(②③は整っているか)
- スキルの獲得を求める前に、支えるべき土台が整っているか
- 「本人が変わるべき」という発想に、知らず知らず偏っていないか
支援者一人ひとりが、①を急がず、まず②③から整えるという視点を持つこと。それが、その子にとって合った環境をつくる第一歩になります。
支援がうまくいかないのは本人のせいではなく、環境が整えられていないからだという部分を常に意識しましょう。
まとめ
今回は障害の社会モデルと個人モデルについて、トランプの例をもとに考えてみました。
幼児期、児童期の支援で難しさを感じるのが「これは本当にこの子の将来に必要なことか」という部分です。
・自分の名前を漢字で書けなくても不自由なく生活している大人がいるかもしれません。
・片付けが苦手でも、お手伝いさんにお願いして不自由なく生活している大人がいるかもしれません。
・目を見て挨拶できなくても、周囲の人が理解しているので不自由なく生活している大人がいるかもしれません。
それでも、療育の場では「将来なるべく困らないように(自分らしく生きられるように)成長の手助けをする」役割があります。
この難しさを解消するための大事な視点は「ツールでサポートする」ことかなと思います。
「こういう手助けがあれば大丈夫」だとその子や保護者さんが理解できれば、苦手をなくそうとする視点ではなく、「どうすれば苦手が軽減されるのか」という視点に立つことができます。
医師や専門職(心理士さん、PT、OT、STさん等)の方々の知見も取り入れながら支援を組み立てる、児発管のソーシャルワークのスキルが試されるところだなと思っています。(ここが本当に難しいです
皆さんの現場でのお悩みも是非是非お聞かせください!!
最後までお読みいただきありがとうございました!


